世界死刑執行記録WORLD EXECUTION RECORD

米国の死刑と人種
「誰を殺したか」で結果が変わる

米国の死刑をめぐる統計で、もっともはっきり出ているのは、被告人の人種ではありませんでした。被害者の人種です。同じような事件でも、殺されたのが白人だった場合のほうが、死刑になりやすい。この傾向は1970年代から繰り返し確認されています。

このページは、死刑制度への賛否を論じるものではありません。統計と判決で確認できる事実だけを整理しています。

ボルダス研究 — 2,000件を数えた

1980年代、法学者デビッド・ボルダスの研究チームが、ジョージア州で1970年代に起きた2,000件を超える殺人事件を集め、どういう場合に死刑判決が出ているかを統計的に分析しました。

結果は明確でした。

検察が死刑を求刑した割合
・黒人の被告人 × 白人の被害者 …… 70%
・白人の被告人 × 黒人の被害者 …… 19%
・黒人の被告人 × 黒人の被害者 …… 15%

さらに、人種以外の39の要素(犯行の残虐性、前科、共犯の有無など)を統計的に取り除いたうえでも、白人を殺害したとされる被告人は、黒人を殺害したとされる被告人より4.3倍死刑になりやすいという結果が出ました。

注目すべきは、差が大きく出たのは被告人の人種ではなく、被害者の人種だったという点です。これは「黒人が重く罰される」というより、「黒人が殺されたときに、その死が軽く扱われる」という構図を示しています。

マクレスキー判決 — 最高裁はどう答えたか

1987年、この研究が連邦最高裁に持ち込まれました。ウォーレン・マクレスキーという黒人男性が、白人警察官を殺害したとして死刑判決を受け、「この量刑には人種による偏りがある」と争ったのです。

判決は5対4でした。マクレスキー側の敗訴です。

多数意見を書いたルイス・パウエル判事は、ボルダス研究が示す差そのものは否定しませんでした。「人種と相関しているように見える差が示されている」と認めています。

そのうえで、次のように判断しました。統計上の傾向を示すだけでは足りない。この被告人の事件において、担当した検察官や陪審員が人種を理由に差別したという証拠が必要である。そして、量刑における差は「刑事司法制度において避けられない一部」だと述べました。

つまり、制度全体に偏りがあることを認めても、個々の事件で証明できなければ救済されないという結論です。そして、検察官や陪審員が「人種で決めた」と証言することは、現実にはまず起こりません。

マクレスキーは1991年に処刑されました。

この判決を書いた判事は、後年に後悔した

パウエル判事は最高裁を退任したのち、伝記作家に対し、投票を変えたい判決を1つ挙げるとすればマクレスキー判決だと語ったと伝えられています。この発言は、判決の評価をめぐって繰り返し引用されてきました。

いまも同じ傾向が出ている

マクレスキー判決から40年近くが経ちますが、傾向は消えていません。2020年に公表された研究では、白人が被害者の事件で殺人罪の有罪となった被告人は、黒人が被害者の場合に比べて17倍執行されやすいという結果が示されています。

また、米国の死刑囚に占める黒人の割合は、人口比を大きく上回る状態が続いています。

なぜこの差が生まれるのか

研究者が挙げてきた要因は、いずれも「誰かが差別しようとした」という話ではありません。手続きのあちこちに小さな偏りがあり、それが積み重なるという説明です。

このサイトの記録との関係

このサイトの米国の記録には、被害者の人種が書かれていることがあります。「1 White Female」のような形です。奇異に見えるかもしれませんが、これは米国の死刑統計が伝統的に被害者の人種を記録してきたためで、Death Penalty Information Center の一覧にもこの欄があります。

このページで見たとおり、その欄こそが結果を左右してきたという研究の蓄積があります。だからこのサイトでも、出典に書かれている限りは削らずに残しています。

出典

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