世界死刑執行記録WORLD EXECUTION RECORD

無実のまま執行された
疑いが残る人

日本の4件は、執行される前に誤りが判明しました。では、判明する前に執行されてしまったら、どうなるのか。米国には、執行されたあとに有罪の根拠が崩れた事件がいくつもあります。ここでは、検証がとくに徹底された2件を取り上げます。

この2人が無実だったと、裁判所が認定したわけではありません。米国の制度では、執行された人の再審は行われません。ここに書くのは、独立した専門家や大学の調査チームが公表した検証の内容です。「疑いが残る」以上のことは書きません。

キャメロン・トッド・ウィリンガム — 火事は放火ではなかった

1991年、テキサス州で自宅が全焼し、3人の娘が亡くなりました。父親のキャメロン・トッド・ウィリンガムが放火殺人で有罪となり、2004年に処刑されました。

有罪の柱は、消防の火災調査官による「これは放火である」という鑑定でした。床の焼け方、ガラスのひび割れ方など、20を超える「放火の証拠」が挙げられました。

執行の2か月前に届いた報告書

執行の2か月足らず前、弁護人が火災科学の専門家ジェラルド・ハースト博士の報告書を提出しました。内容は、放火の証拠とされたものは、放火でなくても生じるというものでした。

報告書は間に合いませんでした。ウィリンガムは執行されます。

執行後に確認されたこと:テキサス州法科学委員会は、1991年当時の放火科学が有罪判決に影響したことを認めました。現代の火災専門家による検証では、1991年の基準で「放火の証拠」とされた20以上の指標のうち、意図的な放火を示す信頼できる証拠はひとつもないとされています。

床の焼け方も、ガラスのひび割れも、フラッシュオーバーという現象——室内の可燃物が一気に燃え上がる状態——で自然に生じることが、その後の研究で分かっています。

つまり、この火事が放火だったという前提そのものが崩れました。放火でなければ、殺人事件は存在しなかったことになります。

カルロス・デルーナ — よく似た別の男

1983年、テキサス州コーパスクリスティのガソリンスタンドで、従業員のワンダ・ロペスさんが殺害されました。カルロス・デルーナが逮捕され、1989年12月7日に処刑されました。

有罪の決め手は目撃者による犯人識別でした。デルーナは一貫して無実を主張し、カルロス・エルナンデスという知人がやったと訴え続けました。

検察は法廷で、そんな人物は存在しない、デルーナの作り話だと主張しました。

執行後に確認されたこと:コロンビア大学ロースクールのジェームズ・リーブマン教授らの調査チームが、この事件を数年かけて再検証しました。

カルロス・エルナンデスは実在しました。しかも、デルーナと顔がよく似ており、友人や家族でさえ2人の写真を取り違えるほどだったといいます。さらに、エルナンデスはデルーナが処刑された事件とよく似た犯罪を繰り返していた人物として、当時から警察と検察に知られていました。

デルーナが法廷で名指しした男は、実在し、警察が把握していた。それでも「架空の人物」として扱われました。

この2件が示していること

2件は原因がまったく違います。片方は科学の誤り、もう片方は目撃証言の誤りと、それを検証しなかった手続きです。共通しているのは結果だけです。

どちらも、いま訂正できません。米国では、執行された人について再審の手続きがありません。裁判所が「無実だった」と認定する道が制度上ないのです。だから何十年経っても、公式には「有罪のまま」です。

日本の免田・財田川・松山・島田の4人は、無罪を勝ち取って生きて出てきました。ウィリンガムとデルーナには、その時間がありませんでした。違いは、誤りの有無ではなく、判明が間に合ったかどうかです。

日本の飯塚事件

日本にも同じ構造の事件があります。飯塚事件です。

1992年に福岡県飯塚市で女児2人が殺害された事件で、久間三千年さんの死刑が2006年に確定し、2008年10月28日に執行されました。その後、有罪の柱だったDNA鑑定の手法に問題があったとして、遺族が再審を請求しています。争いはいまも続いています。

日本では、執行後でも遺族などが再審を請求できます。ただし、認められたとしても、本人はもういません。

なぜこのページを書いたか

このサイトは日々の執行を記録していますが、記録される1件ずつが正しい判決の結果だと保証することはできません。それを保証できる人は、どこにもいません。

ここに並ぶ名前のなかに、後年に有罪の根拠が崩れる人が含まれている可能性は、常にあります。この2件は、その可能性が現実になった例として記録されています。

出典

関連

死刑が確定したあとに無罪になった4人冤罪と死刑米国の死刑と人種今日の記録

2026-09-08