麻薬犯罪と死刑
なぜ国際的に問題とされるのか
このサイトの記録を見ると、罪状に「麻薬犯罪」「覚醒剤の密売」「ハシシの密輸」と書かれたものが数多くあります。人を殺していない人が死刑になっている、ということです。これは国際的に大きな争点になっています。
「最も重大な犯罪」という線引き
国際人権規約(自由権規約)6条2項は、死刑を廃止していない国においても、死刑は「最も重大な犯罪」に対してのみ科すことができる、と定めています。
この「最も重大な犯罪」が何を指すのかについて、国連の人権機関は繰り返し解釈を示してきました。意図的な殺人、つまり故意に人の命を奪った犯罪に限られるという立場です。
この解釈に立てば、麻薬の密輸や密売は「最も重大な犯罪」に当たりません。国連の関係機関は、麻薬犯罪への死刑適用を国際法違反として一貫して批判しています。
それでも適用している国
麻薬犯罪で死刑を執行している国は限られていますが、執行数では大きな割合を占めます。
- イラン — 死刑の罪状としてもっとも多い。所持・運搬の量に応じて科される。
- サウジアラビア — 「タアズィール刑」として執行される。2026年に確認された執行の多くが麻薬関連だったとアムネスティが報告している。
- シンガポール — 一定量以上の所持で死刑が法定されている。中央麻薬局が執行を公表する。
- 中国、ベトナム — 適用しているが、執行数は公表されない。
誰が執行されているか
記録を並べると、ある傾向が見えます。麻薬犯罪で執行される人には、外国籍の出稼ぎ労働者や移民が多く含まれます。
イランではアフガニスタン国籍の人、サウジアラビアではパキスタン、イエメン、エチオピア、ナイジェリアなどの出身者が目立ちます。人権団体は、彼らが弁護人を付けにくく、通訳がないまま裁判が進む場合があると指摘しています。
組織の末端で運び役を担った人が摘発され、組織の中枢は摘発されないまま、という構図も繰り返し報告されています。
争点は「抑止力があるか」
適用している国は、麻薬犯罪への死刑には強い抑止力があると説明してきました。シンガポール政府はこの立場を明確に取っています。
これに対し、国連薬物犯罪事務所(UNODC)や研究者からは、死刑と麻薬犯罪の発生率に明確な相関は確認されていない、という指摘が出ています。この論争は決着しておらず、双方が異なるデータを示している状態です。
このサイトは、どちらの立場も取りません。執行された事実と、その出典を記録するだけです。
数の上での意味
麻薬犯罪への死刑をやめれば、世界の執行数は大きく減ります。イランで最多の罪状であり、サウジアラビアでも大きな割合を占めるためです。逆に言えば、2025年の急増の相当部分は、この分野の適用拡大によるものです。
関連
イランの死刑 / サウジアラビアの死刑 / 記録に出てくる言葉 / 今日の記録