「今日の記録なし」が意味しないこと
このサイトのトップページには、しばしば「まだ確認されていません」と表示されます。これは「今日、世界のどこでも死刑が執行されなかった」という意味ではありません。むしろ、そう読まれてしまうことが、この記録のいちばん大きな危険です。世界の死刑執行の数がどのように確認され、なぜ後から増え続けるのかを説明します。
数字は、常に後から増える
死刑の執行は、多くの国で、行われた当日に公表されません。国によっては、数日後、数週間後、あるいは永久に公表されないこともあります。公表しない国では、人権団体が遺族や刑務所関係者から個別に聞き取り、裏付けを取ったうえで公表します。この作業には時間がかかります。
そのため、このサイトの「9月1日」の欄は、9月1日の時点では空でも、9月10日には3人分埋まっている、ということが日常的に起こります。過去の日付をあとから見直すと数字が増えているのは、記録の不備ではなく、確認がそういう順序でしか進まないためです。
世界の8割はイラン、しかし公式発表は1割
近年、世界で行われる死刑執行の約8割はイランに集中しています。2025年の場合、確認された世界全体の執行約2,700件のうち、およそ2,150件がイランでした。
ところが、イラン当局が公式に発表するのは、そのうち1割程度にとどまるとされています。残りの9割は、公式発表のないまま執行されます。それを確認しているのが、Hengaw、Iran Human Rights といった人権団体です。
これらの団体は、刑務所内の情報提供者や、遺体の引き取りを求められた家族からの連絡をもとに、氏名・年齢・刑務所名・罪状を確認して公表します。家族が沈黙を選べば、その執行は誰にも知られないまま終わります。つまり、確認された数は常に、実際に行われた数より少ない。
数字が「存在しない」国がある
中国、北朝鮮、ベトナムは、死刑の執行数を国家機密として扱っており、一切公表していません。とくに中国は、年間で数千件の執行があるとみられていますが、確認できる出典が存在しないため、このサイトの記録には1件も含まれていません。
これは「中国では執行がない」ということではなく、「確認する方法がない」ということです。世界の死刑を数えようとするとき、最大の空白がここにあります。個別の事件が報道で確認できた場合に限り、このサイトでも記録します。
米国だけは、時刻まで分かる
対照的に、米国の執行は、死亡が宣告された時刻まで分単位で公表されます。執行には報道関係者が立会人として入り、その場で時刻を記録して報じるためです。処刑室に何時何分に入り、薬物の投与がいつ始まり、何時何分に死亡が宣告されたかまで、地元紙が伝えます。
このサイトが米国の記録にだけ時刻を載せているのは、米国が特別に多く執行しているからではありません。米国だけが、その情報を公開しているからです。米国の年間の執行数は、イランの100分の1程度です。
日付は日本時間に直してある
このサイトは、すべての執行を日本時間の日付に置き直して並べています。同じ「今日」を共有するためです。
米国の執行は、現地の夕方から夜に行われることがほとんどです。米国東部の午後6時は、日本時間の翌日午前7時にあたります。つまり米国で「月曜の夜」に行われた執行は、このサイトでは「火曜」の記録として現れます。現地の日付と1日ずれることになりますが、どちらの日付も記録には残してあります。
時刻が公表されない国については、換算のしようがないため、現地で報じられた日付をそのまま日本時間の日付として扱っています。イランやサウジアラビアの記録が該当します。この場合、実際には最大で1日ずれている可能性があります。
この記録に載っていないもの
司法手続きを経ていない殺害は、このサイトでは扱いません。武装勢力による処刑、超法規的な殺害、紛争下の虐殺は、たとえ「処刑」と報じられていても、裁判を経た死刑執行とは別のものです。
また、死刑判決が出ただけの人、執行が迫っているとされる人、恩赦や執行停止となった人も掲載していません。載るのは、執行されたことが確認された人だけです。
結論として、この数字をどう読むか
このサイトに並ぶ数字は、世界で実際に行われた死刑の一部です。おそらく、かなり小さな一部です。中国の数千件が丸ごと欠けており、イランの相当数が確認を待っており、今日の分は数日後にならないと現れません。
それでも、確認できた1件ずつに氏名と日付と出典を残しておくことには意味があると考えています。数えられないものを推測で埋めるのではなく、数えられたものを正確に残す。それがこの記録の方針です。
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